五十嵐太郎・菅野裕子著『様式とかたちから建築を考える』を読んで

五十嵐太郎・菅野裕子著『様式とかたちから建築を考える』(平凡社, 2022) 横浜国立大学の菅野先生より新著をご恵贈いただいた。私のような業界の隅で細々と生きる一介のサラリーマンを気をかけていただき恐悦至極、感謝感激、早速背筋を正して拝読したのだ…

旧坂本小学校解体前見学会レポート

先週末はTwitter近代建築界隈で話題になっていた台東区下谷にある旧坂本小学校の解体前の見学会に行ってきた。『旧坂本小学校』は下谷区入谷尋常高等小学校新校舎として1926年竣工、鉄筋コンクリート造3階建てで、設計者は阪東義三(東京市営繕課)、施工者…

『東京のかわいい看板建築さんぽ』発売のお知らせ

© tegamisha 先般、看板建築の3冊目、自身の名前では2冊目となる著書を上梓した。本書は東京都内に現存し、かつ現在も営業中の店舗に焦点を絞ったさんぽ本で、都内の下町めぐりに最適な構成となっている。 タイトルからも察しがつくように、メインターゲット…

『看板建築図鑑』発売のお知らせ

2019年12月24日、前著『看板建築 昭和の商店と暮らし』の出版から7ヶ月後、満を持して『看板建築図鑑』を出版する運びとなった。初の単著である本書は、2018年の春に「大福書林」という出版社から届いた「このブログ記事にある立面図集をつくりませんか?」…

『看板建築 昭和の商店と暮らし』発売のお知らせ

2019年5月29日、『看板建築 昭和の商店と暮らし』という本が出版される。看板建築のみに焦点を当てた出版物としては藤森照信氏の『新版 看板建築』(三省堂,1999)以来、実に20年越しのもので、間違いなく看板建築をめぐる言説の貴重な資料のひとつとなる。 こ…

藤森照信氏講演会「辰野金吾と東京駅」レポート

2019年1月26日、東京ステーションギャラリーにて催された藤森照信氏の講演会のレポートです。

看板建築を描くことについて

《蜷川家具店(1930)》2018年に入ってから、時間を見つけては看板建築の写真を撮り、立面図を起こす作業に没頭している。一体何を始めたのかと疑問に思っている方もいるかもしれないが、決して伊達や酔狂で描いている訳ではない。・・・と言いつつも、狂人…

ウロボロスの書

「万物は流転し、同じ軌道を繰り返し廻っているのであり、観者にとってはそれを百年見ていようと二百年見ていようと永遠に見ていようと同じことであることを銘記せよ」 ―マルクス・アウレリウス『自省録』第二章第十四節 ガルシア・ホセ・ムヒカがタクナの街…

製図室にて

午前3時、愛用のMacの画面が時間を告げる。無機質な白一色で整えられた製図室には、私と、同級生の加藤しかいない。といっても彼は寝袋にくるまっていびきをかいている。 エスキス提出の前夜なのに、煮詰まっているのは私だけ。他の仲間は早々に切り上げて散…

叛逆する平面―知られざる東京都慰霊堂

東京都慰霊堂をご存じだろうか。東京で暮らしていても縁遠い施設ゆえにその存在を認識している人はあまりいないんじゃないだろうか。かくいう僕も恥ずかしながら2、3年前まで所在すら知らなかった。 最寄り駅は総武線両国駅で、両国国技館や江戸東京博物館か…

【編集中】金沢建築弾丸ツアー(2日目)

(現在編集中です。しばらくお待ちください。)

金沢建築弾丸ツアー(1日目)

「建築を見に行く」という行為は、著名な古刹・城郭・洋館でもない限り、建築の業界に携わる者でなければなかなか理解し難い行動かもしれない。いや、この業界にいても理解を示さない人は一定の割合で存在し、ましてや絨毯爆撃のように片っ端から目とカメラ…

ボーヴェ大聖堂

―その瓦礫が表しているものは絶望ではない。大聖堂において苦痛は、ただ解放と再生を謳いあげるテ・デウムへの悲痛な期待のなかにだけ存在する。― ジョルジュ・バタイユ*1 パリから北におよそ77km、ボーヴェという人口5万人程度の小さな街に、世界中のあらゆ…

墓とインスタ 変容する死との距離感

九相観図(部分, 道源宗一和尚筆)とインスタ納骨 「#納骨」といういささかパンチの効いたハッシュタグがつけられ墓前で笑顔を向ける若い女性の写真と、それを揶揄するコメントが僕のTLに流れてきた。 その投稿には納骨という一般的に公にすべきでないとされ…

ラブドールと写真家 ―「LOVE DOLL × SHINOYAMA KISHIN」展トークイベント レポート

出典:WWD 手渡された名刺には「芸術家」でも「アーティスト」でもなく、「写真家」という肩書きが控えめに書かれていた。「激写」という言葉を生み出し、時代とともに先端を走り続ける篠山紀信氏は、週刊誌のグラビアをはじめ「写真」を媒体に多岐に亘る被…

すっぴん風メイクと建築

XBRAND掲載「美的」記事より「すっぴん風メイク」や「無造作ヘア」などといった言葉を耳にしたことがあるだろうか。これらは僕ら人間のインターフェイスである顔や頭髪において、女性の厚めの化粧や、男性の整えた髪型に対するカウンターに位置するファッシ…

建築における「コンセプト」と「現実問題」について

昨晩、とある学生から下記のメッセージをいただいた。>>初めまして。 私はある大学の学部1年の者です。 突然失礼ですが、どうしても気になることがあるので質問させて下さい。 私は三分一博志さんの建築に対する考え方(動く素材[太陽、水、風など]を発見し…

瑠璃光院白蓮華堂に行ったこと

最近の専らの趣味といえば、建築マップを作成して実際に訪れることだ。 僕が幾人かの友人と作ったマップには、数多の建築家が心血を注いで作り上げた建築が、まるで綺羅星のように光り輝いている。美術作品は美術館に行かなければ目にすることができないが、…

阿佐ヶ谷書庫に行ったこと

5月某日、堀部安嗣氏設計による「阿佐ヶ谷書庫」(2013)の内覧会に行ってきた。 今回は外観・内観ともに撮影不可という制約があったが、この建築の詳細は『書庫を建てる 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト』(松原隆一郎・堀部安嗣,2014,新潮社)につ…

ガンダム建築

「機動戦士ガンダム」を知っているだろうか。 かれこれ30年以上続くアニメーションのシリーズで、内容は知らなくても名前くらいは聞いたことがあると思う。僕は「ガンダム」が結構好きだ。もっと言えばシリーズ全体、外伝的な小作品、小説や漫画も含めたコン…

台東区近代寺院散策 〜 妙経寺・善照寺・松源寺

週末に散歩がてら台東区にある寺を3つほど回ってきた。寺といっても戦後に建築家の手によって建てられた近代建築で、全てRC造のものだ。 これらは新御徒町駅から徒歩圏内で、穏やかな気候の中、ぶらぶら散歩するにはちょうど良かった。妙経寺 / 川島甲士 (1…

「ガリガリ君値上げCM」の反響に対する違和感

SNS上で、とあるCMが話題を呼んでいる。 ガリガリ君「値上げ篇」(60秒)なるほど、こんなやり方で値上げを宣言するとは面白い、と思ったが、どうも多くの人は純粋にこの態度について「賞賛」しているようだ。 ガリガリ君値上げに、社員全員で謝罪!誠意がス…

千葉日帰り建築めぐり

「ホキ美術館に行きたい」動機はいたってシンプルだ。千葉市には社会人を始めて2年ほど住んでいたが、日々の仕事に忙殺され建築見学もろくにしないまま慌しく去ってしまった。しかしホキだけは見なければ建築に関わる者として恥ずかしい、そんな勝手な思いこ…

伝説の論文

この話は僕が見聞きした事実に基づいているが、インターネットという媒体の都合上、論文著者の名は一部改変していることをあらかじめお断りしておく。 僕がその論文のことを知ったのは学位論文執筆中の2011年、当時アルバイトで出入りしていた某設計事務所の…

補章:「旅行の設計」のすすめ

今回の5泊7日間のNY旅行では安全かつ貪欲にアートと建築に触れ合うというコンセプトのもと、普段の旅行以上に綿密なスケジュールを組む必要があった。というのも、昨年の夏に行ったシンガポールでは、スケジューリングの甘さからリベスキンドのにょろにょろ…

ニューヨークの建築・アートめぐり(6日目)

ステファヌ・マラルメは「世界は一冊の書物に到達するために存在する」と言ったが、マンハッタンの章は数ページほど書き足さなくてはならない。と言いたくなるほどNYの建築とアートにどっぷり浸かった旅行もいよいよ最終日。日本に帰りたくない、仕事したく…

ニューヨークの建築、アートめぐり(5日目)

ニューヨークの朝は寒い。特にこの日は最低気温が-10℃とかなり冷え込み、外に出ると風が吹き付け、思わず手をポケットに引っ込めた。ニューヨークはこの日から始業する企業も多く、朝の人通りも多かった。僕らはPark Avenueを通ってGrand Central駅まで歩き…

ニューヨークの建築、アートめぐり(4日目)

4日目はきょうこ氏とエンパイアステートビルの前で待ち合わせたが、僕らも彼女も遅刻してしまい、エンパイアステートビル展望台の列で合流することになった。「待ち合わせに間に合わない」と慌てていた妻も、相手の方が遅れるとわかり余裕が出たのか、スタバ…

ニューヨークの建築、アートめぐり(3日目)

3日目は僕と妻の共通の友人で、ボストンに住むきょうこ氏とノイエ・ガレリエにて合流する予定となっていた。ノイエ・ガレリエの開館時間は11時、それまでの間、ホテルからグランドセントラル駅まで街を歩くことにした。 Seagram Building / Mies van der Roh…

ニューヨークの建築、アートめぐり(1,2日目)

2015年12月31日〜2016年1月6日まで、ニューヨークに建築とアートを求めて旅行をした。 年末はロシア・トルコ間で折衝があり、パリでISISによる同時テロが発生したりと国際情勢が不穏な中での旅だったので、同行する妻との約束事として①18時以降出歩かない ②…