小話

看板建築を描くことについて

《蜷川家具店(1930)》2018年に入ってから、時間を見つけては看板建築の写真を撮り、立面図を起こす作業に没頭している。一体何を始めたのかと疑問に思っている方もいるかもしれないが、決して伊達や酔狂で描いている訳ではない。・・・と言いつつも、狂人…

ウロボロスの書

「万物は流転し、同じ軌道を繰り返し廻っているのであり、観者にとってはそれを百年見ていようと二百年見ていようと永遠に見ていようと同じことであることを銘記せよ」 ―マルクス・アウレリウス『自省録』第二章第十四節 ガルシア・ホセ・ムヒカがタクナの街…

製図室にて

午前3時、愛用のMacの画面が時間を告げる。無機質な白一色で整えられた製図室には、私と、同級生の加藤しかいない。といっても彼は寝袋にくるまっていびきをかいている。 エスキス提出の前夜なのに、煮詰まっているのは私だけ。他の仲間は早々に切り上げて散…

叛逆する平面―知られざる東京都慰霊堂

東京都慰霊堂をご存じだろうか。東京で暮らしていても縁遠い施設ゆえにその存在を認識している人はあまりいないんじゃないだろうか。かくいう僕も恥ずかしながら2、3年前まで所在すら知らなかった。 最寄り駅は総武線両国駅で、両国国技館や江戸東京博物館か…

ボーヴェ大聖堂

―その瓦礫が表しているものは絶望ではない。大聖堂において苦痛は、ただ解放と再生を謳いあげるテ・デウムへの悲痛な期待のなかにだけ存在する。― ジョルジュ・バタイユ*1 パリから北におよそ77km、ボーヴェという人口5万人程度の小さな街に、世界中のあらゆ…

墓とインスタ 変容する死との距離感

九相観図(部分, 道源宗一和尚筆)とインスタ納骨 「#納骨」といういささかパンチの効いたハッシュタグがつけられ墓前で笑顔を向ける若い女性の写真と、それを揶揄するコメントが僕のTLに流れてきた。 その投稿には納骨という一般的に公にすべきでないとされ…

ラブドールと写真家 ―「LOVE DOLL × SHINOYAMA KISHIN」展トークイベント レポート

出典:WWD 手渡された名刺には「芸術家」でも「アーティスト」でもなく、「写真家」という肩書きが控えめに書かれていた。「激写」という言葉を生み出し、時代とともに先端を走り続ける篠山紀信氏は、週刊誌のグラビアをはじめ「写真」を媒体に多岐に亘る被…

すっぴん風メイクと建築

XBRAND掲載「美的」記事より「すっぴん風メイク」や「無造作ヘア」などといった言葉を耳にしたことがあるだろうか。これらは僕ら人間のインターフェイスである顔や頭髪において、女性の厚めの化粧や、男性の整えた髪型に対するカウンターに位置するファッシ…

建築における「コンセプト」と「現実問題」について

昨晩、とある学生から下記のメッセージをいただいた。>>初めまして。 私はある大学の学部1年の者です。 突然失礼ですが、どうしても気になることがあるので質問させて下さい。 私は三分一博志さんの建築に対する考え方(動く素材[太陽、水、風など]を発見し…

ガンダム建築

「機動戦士ガンダム」を知っているだろうか。 かれこれ30年以上続くアニメーションのシリーズで、内容は知らなくても名前くらいは聞いたことがあると思う。僕は「ガンダム」が結構好きだ。もっと言えばシリーズ全体、外伝的な小作品、小説や漫画も含めたコン…

「ガリガリ君値上げCM」の反響に対する違和感

SNS上で、とあるCMが話題を呼んでいる。 ガリガリ君「値上げ篇」(60秒)なるほど、こんなやり方で値上げを宣言するとは面白い、と思ったが、どうも多くの人は純粋にこの態度について「賞賛」しているようだ。 ガリガリ君値上げに、社員全員で謝罪!誠意がス…

伝説の論文

この話は僕が見聞きした事実に基づいているが、インターネットという媒体の都合上、論文著者の名は一部改変していることをあらかじめお断りしておく。 僕がその論文のことを知ったのは学位論文執筆中の2011年、当時アルバイトで出入りしていた某設計事務所の…

面と線についての覚え書き

半年くらい前に国立新美術館でやっていた「ルーブル美術館」展と、サントリー美術館での「若冲と蕪村」展を同日に観たことを思い出したんだけど、その時に西洋絵画と日本の絵画の根本的な対象に対する認識の違いというものに気づいたので、少々考察を加えな…

廃墟について

ピラネージ作『ローマの遺跡群』先日、日本の産業革命遺産として軍艦島などがUNESCOの世界遺産として登録されたというニュースを知った。 世界遺産に認定されれば、維持管理のために「世界遺産基金」から補助金が支給される。建築物や土木構造物などの人工物…

儀式的なもの〜日本人における「型」の意味

先日、友人と会話していた時に「男の職場」と「女の職場」の違いが話題になった。 例えば、連休なんかで久しぶりに職場に戻った時の「お土産」に対する意識が全然違うという。 僕の属している建設業は「男の職場」だからか、お土産なんてもらえたってもらえ…

「宇宙×想像×空間」 原広司氏の講演会で感じたこと

扉絵は「市原湖畔美術館HP」より昨日は千葉県の市原湖畔美術館にて開催中の、 「HIROSHI HARA : WALLPAPERS-建築家原広司による、2500年間の空間思想をたどる写経」 という展示を観に行きました。目的は、展示もさることながら、同時開催の原広司氏およびゲ…

デザインの敗北、デザインの勝利〜セブンカフェコーヒーマシーンのデザインを巡って

今日バズってたあるFBユーザーのコメントが、あまりに酷い内容であったのでここに転記しておく。〜日本語がカッコいいと世界の人が気づいた時にまだ、英語がかっこいいと信じてる間抜けなデザイナーが日本には5万といる。 私は、日本で使われている文字の形…

コストのことを考えさせる理由

僕も生意気に後輩の作品のエスキスチェックなんかする機会があるんだけど、最近はしばしばコストのことを口にするようになった。「それ、いくらかかるの?」とか「このデザインなら○○だと単価が高いから××にしたら」とか。あるいはこんな質問もする。「これ…

建築学生は「カーサ」を読むな

表題に驚かれたかもしれない。 「カーサ」とは知っている方も多いかもしれないけど、マガジンハウス社刊の「CasaBRUTUS(カーサ ブルータス)」のことである。 最近は「一個人」などと並んでコンビニに置かれている建築・デザイン系のお洒落な雑誌である。僕…

風呂と茶室とブリコルール

この間Twitter眺めていたら、こんな記事を見かけました。 日本人の風呂好きは異常!瓦礫でつくった露天風呂に海外メディア仰天 日本人はことに風呂好きです。哲学者の和辻哲郎は島国日本の湿気が日本人を風呂好きにしていると指摘していますし、入浴すること…